真珠は古くから「宝石の女王」と呼ばれ、人々の憧憬の対象でした。その清らかな美しさは、権力を誇る騎士や歴史に名を残す女王たちをも魅了したといわれています。
なかでも日本は質の高い真珠の産地として世界的に知られており、各国の女性たちに愛されてきました。優雅で気品あふれる真珠には、どのような歴史が秘められているのでしょうか。
真珠の種類や養殖技術の変遷も含めて、その奥深い歴史と魅力に迫ってみましょう。
(※上記画像:豪奢な真珠のジュエリーを身に着けたイタリア王妃マルゲリータ。「マルゲリータ」という名前も真珠にちなんだものです。)
なお、真珠の基本的な知識については、以下の記事でも詳しく紹介しています。▶【真珠とは?】宝石としての真珠の定義や名前の由来、真珠養殖の歴史、世界に伝わる伝説を紹介
目次
東洋における真珠の歴史

現代の日本ではフォーマルなシーンに不可欠とされている真珠ですが、いったいいつ頃から愛されてきたのでしょうか。アジアにおける歴史とともに、真珠にまつわる逸話をご紹介します。
中国の伝説や仏教にも登場する真珠
中国において、真珠は「人魚の涙」であるとする伝承や、空で戦う竜の口からこぼれ落ちたものだとするロマンあふれる伝説が残っています。
また仏教においても、真珠は極楽浄土を飾る「七宝」のひとつとして解釈されてきました。その信仰を反映して生み出されたのが「仏像真珠」です。
仏像真珠とは、淡水の真珠貝を使った初期の養殖真珠のこと。貝殻の内側に仏像の形の核を張り付け、その上に真珠層を形成させることで仏像が浮き上がるようにする技法であり、大変高貴かつ高価なものとして珍重されていました。
古代の東洋では、真珠は神秘的な力を秘めたお守り(パワーストーン)として扱われていたのです。現代でも真珠は、持ち主を守るさまざまな意味を持つ宝石として愛されています。
※真珠を持つ意味をについて詳しくは▶真珠が持つ意味とは?冠婚葬祭・嫁入り道具・厄除けにぴったりなパールネックレスを徹底解説!
女王・卑弥呼も真珠を持っていた?
日本の古代といえば、邪馬台国と女王・卑弥呼が思い浮かびます。実は、この卑弥呼も真珠を所有していたと伝えられているのです。
当時の日本ではすでに海人(あま)が真珠を採取しており、大陸との交流において、貴重な真珠が友好の証(貢ぎ物)として取り交わされていました。
また、女傑として知られる神功皇后が竜宮から真珠を得たという伝説があるほか、奈良時代の歴史的遺産である正倉院の宝冠や刀にも、美しい真珠の装飾が残されています。
西洋における真珠の歴史

(※画像:若き日の英国女王エリザベス1世も熱心な真珠の愛好者でした)
ヨーロッパの貴婦人たちには、ことのほか真珠が似合うイメージがあります。実際に、西洋でも真珠は大変愛された宝石のひとつであり、その歴史は古代にまでさかのぼります。
クレオパトラも愛した真珠
世界史を変えたといわれる古代エジプトの女王クレオパトラ。並み居る英雄たちを魅了した彼女は、真珠をこよなく愛したことでも知られています。
もともと東洋の宝石とされていた真珠が広く西洋にもたらされたのは、アレクサンダー大王による東方遠征がきっかけでした。古代ローマ時代の博物誌には、真珠は「月や天界と関係を持つ神秘的な宝石」として記されています。
ギリシア語で「マルガリタ」と呼ばれた真珠は西洋社会に深く根付き、やがて真珠を意味する「マーガレット(英語)」や「マルガレーテ(ドイツ語)」といった女性の名前が定着するほど身近な存在となりました。
真珠は魔除け?古代から続く人気
中世のヨーロッパでは、真珠は装飾品であると同時に魔除けとして珍重されていました。女性的なイメージの強い真珠ですが、魔や危険を遠ざけるお守りとして、戦地に赴く騎士たちも密かに携帯していたといわれています。
また、キリスト教の宗教画にも真珠は数多く描かれましたが、これは聖書に「天上の都の12の門は真珠でできている」という記述があることに由来します。
16世紀に入るとヨーロッパは「パール・エイジ(真珠の時代)」を迎え、王侯貴族の権力と富の象徴として真珠の価値は最高潮に達しました。
ロマン主義の時代になると、真珠は「天使や妖精、あるいは愛する人の涙」という情緒的な解釈も生まれます。富の象徴としてだけでなく、ロマンチックなアイテムとしてさらに人気を得た真珠は、18世紀に産出量が減少したこともあり、ダイヤモンドに勝るとも劣らない宝石界の花形であり続けました。
真珠の価値はさまざまなシンボルに

(※画像:日本でも有名なフェルメールの名作『真珠の耳飾りの少女』)
神の創造物として崇められてきた真珠は、さまざまなシンボルとしてアートの世界にも描かれています。
真珠は6月の誕生石
西洋社会において、真珠には「清廉」「高潔」「謙虚」という意味が込められています。古代ギリシアでは、愛と結婚のエンブレムでもありました。こうしたポジティブな事象のシンボルであることから、特に女性の人生に寄り添う宝石として定着しています。
真珠は6月の誕生石でもあります。ジューンブライドと呼ばれ、結婚式が多い6月にふさわしい、美しく祝福に満ちた宝石です。
アートの中の真珠

(※画像:ルネサンスの名作『ヴィーナスの誕生』。ヴィーナスは真珠の化身として描かれています。)
絵画の中に描かれる真珠は、女性たちを美しく、そして品格ある姿に描くための重要なアイテムでした。名作として名高いボッティチェリの『ヴィーナスの誕生』においては、美しいヴィーナス自身が「真珠の化身」として描かれています。
真珠の色が意味するものは?
真珠には自然が育んださまざまな色があります。西洋では、真珠のそれぞれの色彩にも意味があるとされてきました。
- 白(純粋さ・婚約・結婚)
- 黒(洗練・富・パワー)
- ピンク(女性らしさ・幸福な恋愛)
- 黄色(明朗さ・喜び・新たな始まり)
- ブルー(誠実・信頼・空と海)
※真珠の色について詳しくは▶真珠の色はなぜ違う?真珠の干渉色や実体色、テリ・巻きとの関係、色が長持ちするお手入れまで徹底解説
真珠の種類と真珠養殖の変遷

西洋において、「良質な真珠は東洋から来るもの」という概念が存在していました。日本はまさにその言い伝えに恥じない、世界に冠たる真珠王国です。
美しいテリ(光沢)を持つ日本の真珠は、世界の女性たちの憧れの的。現在日本を中心に関わりのある真珠には、どのような種類があるのでしょうか。
真珠の種類
真珠は、大きく「天然真珠」と「養殖真珠」に大別されます。
天然真珠
貝類に自然の偶然によって生じた真珠の総称です。形状はバロック(いびつな形)などさまざまで、真円のものは極めて稀です。
養殖真珠
人為的に貝類に核を入れ、真珠層を形成させた真珠を指します。アコヤガイ、シロチョウガイ、クロチョウガイ、マベガイなどが用いられます。
日本の養殖真珠の歴史は、19世紀終わりごろから始まりました。1905年に真円タイプの生産に成功し、明治天皇にも献上されています。その後の技術発展は著しく、日本の真珠は世界で最も高い評価を得るに至りました。
アコヤ・シロチョウ・クロチョウ、その違いは?
真珠を養殖するための母貝には、いくつかの種類があります。それぞれの特徴をご紹介しましょう。
アコヤ真珠
日本の養殖真珠の主流となっている母貝(アコヤガイ)です。美しい真円の真珠を作り出すことができ、養殖技術が確立する以前から、天然真珠の王者と呼ばれていました。
しかしアコヤガイは生息条件が厳しく、昭和の初めごろまでは日本の固有種と考えられていたほどです。
19世紀の終わり、御木本幸吉らがアコヤガイに核を入れて養殖を試みたのを皮切りに、日本における真珠養殖の歴史が幕を開けました。現在でも、アコヤ真珠が放つ特有のきめ細やかな光沢と上品な色調は、世界中で不動の人気を誇っています。
シロチョウ真珠(白蝶真珠)
世界最大の真珠貝であるシロチョウガイから生まれる、大粒でダイナミックな真珠です。かつては南洋真珠と呼ばれていました。シロチョウガイの真珠層はとても厚く、そこから生まれる重厚な銀白色はことのほか愛されてきました。
真珠としてだけでなく、その美しい貝殻自体も螺鈿(らでん)細工などの高級工芸品に用いられます。かつてはダイバーが命がけで天然のシロチョウガイを採取していましたが、現在は人工採苗技術が進んでいます。
また、貝の周縁部分が金色になっているタイプ(ゴールドリップ)からは、華やかで美しいゴールデンパールが生まれます。
クロチョウ真珠(黒蝶真珠)
タヒチなどで養殖が盛んなクロチョウガイから生まれる真珠です。15世紀の大航海時代、スペイン人がメキシコで発見したクロチョウ真珠をヨーロッパに持ち帰ったことで脚光を浴びました。
クロチョウガイから天然の真珠が生まれる確率は非常に低く、1976年に出版された『黒真珠物語』によれば、「40万個に1個の奇跡」であったと伝えられています。アコヤ真珠よりも大粒になる傾向があり、ピーコックグリーンに代表される神秘的な色彩と、個性豊かなバロック(変形)タイプがもてはやされました。
現在は日本の技術支援等もあり、世界のクロチョウ真珠の90%以上がタヒチ(フレンチポリネシア)で生産されています。
※この他の真珠について詳しくは▶ホタテから真珠がとれる?スキャロップパールがとれる理由や確率、真珠を作る貝10種を紹介
数十か国に輸出される日本の真珠
日本産の真珠は、現在も世界中で非常に高い需要を誇ります。日本では冠婚葬祭のイメージが強いため、国内向けが大半と考えている方も多いかもしれません。
しかし実際には、高品質な日本の真珠はアメリカ、ヨーロッパ、そしてアジア各国へ数多く輸出されており、世界中から渇仰されています。
特に、真珠加工の中心地である「神戸」からの輸出量は、日本全体の約70%を占めています。神戸はまさに、良質な真珠が世界へ羽ばたくメッカなのです。
※日本の養殖真珠の産地について詳しくは▶【真珠の産地】日本の三大産地の養殖の歴史や真珠の特徴、世界の真珠産地まで徹底解説
真珠の美はすべての女性のために

(※画像:歴史に残る名真珠「ラ・ペレグリーナ」を身に着ける女王メアリー1世)
古来、女性たちを美しく飾ってきた真珠。西洋では、東洋に起源を持つ神秘的な宝石として、王侯貴族に愛されてきました。
魔除けやお守りの意味を持ち、幸福や愛へと導いてくれる真珠のパワー。その気品と美しさへの情熱が、やがて養殖技術という奇跡を生むに至りました。
現在では、限られた特権階級のものだけでなく、すべての女性たちの気品を演出するジュエリーとして広く普及しています。
真珠で気品をまとう

お守りとして、そして女性たちを美しく彩るジュエリーとして、数世紀を超えて輝き続けてきた真珠。
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【その他、真珠の歴史に関するコラム】
▶︎なぜ真珠は「涙」の象徴なのか?名画と伝説で紐解く、生命の宝石の神秘【真珠水族館】
▶︎なぜ真珠は「月の雫」なのか?世界の伝承と古代インド占星術が語る宇宙の神秘【パールプラネタリウム】
▶︎なぜ真珠は「愛」の象徴なのか?『ヴィーナスの誕生』など名画で紐解く美術史【真珠美術館】
【参考文献】
- 一般社団法人 日本真珠振興会「真珠指針2020」
- 山田篤美著『真珠の世界史』2013年, 中央公論社刊
- 小学館『日本大百科全書』 ・平凡社『世界大百科事典』
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